“静かな炎”を投げた22歳——イェサベージが刻んだポストシーズン初勝利

この夜のロジャース・センターは、まるで祭りのようだった。
青いユニフォームの波がスタンドを埋め、チャントが渦を巻く。

スコアボードには「13−7」

トロント・ブルージェイズがヤンキースを打ち砕き、地区シリーズ2連勝で王手をかけた。


目次

若きイェサベージ、初登板での衝撃

22歳のルーキー、トレイ・イェサベージ
彼がマウンドに立った瞬間、空気がピリッと張りつめた。まだプロ1年目、9月にデビューしたばかりの若者だ。それがこの日、ポストシーズン初登板で、6回途中まで無安打、11奪三振、1四球。
まさに“新人離れ”という言葉がぴったりだった。

ヤンキースの打者が空を切るたび、観客が立ち上がる。6回、ノーヒットのまま降板すると、スタンドからは拍手と「Trey! Trey!」の大合唱。あの瞬間、この街は彼を“新しいエース”と呼び始めたと思う。
シーズン終盤の疲れをものともしない気迫。どこか大谷翔平の初期を思わせる純粋さもあって、見ているこちらまで胸が熱くなった。


ブラディミール・ゲレーロJr.、満塁弾で試合を決める

そして、この夜のもうひとつの主役——ブラディミール・ゲレーロJr.
4回、無死満塁の場面。ヤンキースが先発マックス・フリードを諦め、救援ウォーレンにスイッチした直後だった。
その初球。
ゲレーロが完璧に捉えた打球は、ため息のような音を残して左翼スタンドに吸い込まれていった。

スタジアムが揺れた。
球団史上初のポストシーズン満塁ホームラン。
この一撃で9−0。試合の流れは完全にブルージェイズへ。


「ブラッディ!ブラッディ!」と叫ぶ観客の声が、天井の鉄骨に反響していた。
これぞ、カナダのスターが“本物”になった瞬間。


バーショの狂乱、止まらぬ攻撃

ゲレーロの一打で終わらないのが今のブルージェイズだ。
この日の打線は、15安打13得点、5本塁打。
中でも光ったのがドールトン・バーショ
5打数4安打、2本塁打、2二塁打。数字だけでも信じられないのに、どの打球も伸びが違う。バットがボールを押し出すような、完璧なミートだった。

2回にはアーニー・クレメントが2ラン。3回には四球と単打を絡めた機動力野球で3点。4回に満塁弾、さらにバーショの2ラン。
5回のスプリンガーのソロで12−0
“攻撃の完成形”という言葉が頭に浮かんだ。


ヤンキースの抵抗と、わずかな希望

それでも、ヤンキースも沈黙はしなかった。
6回、イェサベージが降板すると、ジャッジがチーム初ヒット。続くコディ・ベリンジャーが2ランを放ち、意地を見せた。
さらに7回には代わった中継ぎ陣を攻め、5得点
最終的には13−7と点差こそついたが、終盤の粘りはヤンキースらしかった。

だが、トロントのリズムは崩れない。
この2試合での合計スコアは23−8。
本拠地ロジャース・センターは、まさに“要塞”と化していた。


試合後のスタンドと、ヤンキースの現実

試合後、スタンドのファンたちは肩を組み、笑い、歌い、夜の街へ散っていった。
一方で、敵地へ戻るヤンキースは静かだった。
主将アーロン・ジャッジは記者に囲まれながらも、落ち着いた表情で語った。

「これは俺たちにとって初めてのことじゃない。
シーズン中も、ワイルドカードでも、いつも崖っぷちだった。
だから焦りはない。自分たちの野球を取り戻すだけだ。

ブーン監督も同じだった。
「第3戦を取れば流れは変わる。ここからだ」と。

確かに、2017年のヤンキースは敵地で2連敗してから3連勝を果たしている。
だが、現在の制度下でそれを成し遂げたのは34チーム中わずか3チーム(8.8%)
それでも、彼らがその数字を覆してきた歴史もまた事実だ。


ジャッジの静かな炎

第2戦のジャッジは3打数2安打1打点2四球
イェサベージ降板後の2安打に意地を込めた。
守備では少し乱れもあったが、試合後は「焦らず、繋ぐこと。自分の役割を果たすだけ」と語る。
第3戦に勝てば、流れは一気に変わる。
その言葉に、主将としての覚悟がにじんでいた。


まとめ:流れはトロントへ、だが野球は何が起こるかわからない

ブルージェイズが2連勝でシリーズ突破に王手。
ルーキーの快投、主砲の満塁弾、そして打線の層の厚さ——全てが噛み合った試合だった。
一方で、ヤンキースも過去に何度も這い上がってきたチーム。
ブロンクスの第3戦で空気が変わるかもしれない。

球場を出ると、カナダの夜風が少し冷たくなっていた。
「まだ終わっちゃいない」——そんな風にも感じられた。

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