ジャッジが夜空を裂いた瞬間——ヤンキース、9−6の逆転劇でブロンクスが再び息を吹き返す

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秋の夜、ブロンクスに吹いた冷たい風

10月7日(日本時間8日)、ヤンキー・スタジアム。
空気はもう秋の匂いを帯び、息を吐けば白くなるほどだった。
アメリカン・リーグ地区シリーズ第3戦、2連敗で崖っぷちのヤンキース。
試合序盤、5点差をつけられたスタンドの空気は「冬」を待つように静まり返っていた。
だが、その夜、ブロンクスにはまだ“終わり”という言葉が似合わなかった。


序盤の絶望——ロドンが打ち込まれた夜の前半

ヤンキース先発カルロス・ロドンが立ち上がりから制球を乱す。
1回、ウラジミール・ゲレーロJr.が右中間に427フィートの2ランホームラン
これで3試合連続の一発。
さらに3回には、シュナイダー、クレメント、サンタンダーが連続タイムリー。
スコアは6−1。
ALDS第1・2戦で合計23失点していたチームは、再び沈みかけていた。

ベンチの空気も重い。観客席の声援が一瞬途切れた。
誰もが「今季はもう終わりか・・・」と思った。
それでも、ヤンキースはまだ折れていなかった。


反撃の始まり——3回裏、微かな灯

3回裏、トレント・グリシャムの二塁打から反撃が始まる。
アーロン・ジャッジのタイムリー二塁打で1点を返し、スタントンの犠牲フライでさらに1点。
6−3。
わずか3点差。
それだけのことだったが、沈んでいたスタンドのざわめきが少しずつ戻ってきた。
スコアボードの「3」が、まるで希望の数字のように光って見えた。


あの一撃——「フェアになれ」と祈った打球

4回裏、オースティン・ウェルズのフライをブルージェイズ三塁手バーガーが落球。
このエラーで1死一・二塁、再びジャッジの打席が回る。
カウント0−2。ルイス・バーランドの投げた99.7マイル(約160キロ)の内角高め。
ジャッジがそれを完璧に捉えた。
打球は高く上がり、左翼ファウルポールに向かって一直線。
祈るように体を傾けるジャッジ。
そして、金属音のような乾いた衝撃——打球はポールを直撃した。

6−6、同点。

この一打は、Statcastの記録を塗り替える異例の一撃だった。
ストライクゾーンの内側1.2フィート、時速99マイル以上の球を本塁打にした例は、2008年以降ただ一度もなかった。
しかも、今季のジャッジにとって初めての「ゾーン外ホームラン」。
物理の限界すら越えた一撃が、スタジアム全体の鼓動を取り戻した。

ベースを一周したジャッジは、ヘルメットを軽く叩き、仲間と腕をぶつけ合う。
ダグアウトに戻ると、テレビカメラに向かって笑い、指を差した。
「まだ終わっちゃいない」と言いたげに。


冷静と情熱のあいだ——チザムJr.の勝ち越し弾

興奮が冷めやらぬ5回裏、ジャズ・チザムJr.がライトスタンドへソロホームラン。
ついに7−6。
試合をひっくり返した瞬間、スタジアムは再び震えた。
チザムはベースを回りながら帽子のつばを軽く押さえた。
派手すぎず、けれど確かな“決意”の仕草。
その姿にファンは再び立ち上がった。

続くウェルズのタイムリーで8−6、6回にはベン・ライスの犠牲フライで9−6。
完全に流れを掌握したヤンキースは、もう振り返らなかった。


ブルペンの無音の支配

ロドンが2回1/3で6失点し降板したあと、
フェルナンド・クルス、カミロ・ドーバル、ティム・ヒル、デイビッド・ベドナーの4人
6回2/3を無失点で繋いだ。
ヒルが勝利投手、ベドナーが1回2/3でセーブ。
クルスの落ちるスプリット、ドーバルの154キロカットボール、
そしてベドナーの低めへの制球。
ブルージェイズ打線が最後までバットの芯で捉えることはできなかった。


守備の綻びが運命を決めた

ブルージェイズにとって、この夜の敗因は単なる“失点”ではない。
1回のカイナー=ファレファのエラー、
4回のバーガーの落球。
どちらも失点に直結し、流れを止めるチャンスを逃した。
監督ジョン・シュナイダーは試合後に短く言った。

「ヤンキース相手に、エラーとフォアボールは命取りになる。」

その言葉がすべてだった。


再生の夜——キャプテンが見せたもの

この試合でジャッジは3安打4打点3得点。
第1戦では満塁で三振に倒れたが、この夜はそのすべてを取り返した。
守備でも5回、アンソニー・サンタンダーのライナーをダイビングキャッチ。
攻守でチームを導いた。

ポストシーズン通算11安打。
そのうち最も価値のある一本が、この夜の同点弾だった。
スタジアムに残った観客たちは試合後、誰もすぐに席を立たなかった。
それぞれの胸の中で、あの打球音がまだ鳴り響いていた。


そして次へ——ブロンクスはまだ冬を拒む

スイープ敗退を免れたヤンキース。
シリーズは2−1とブルージェイズが依然優勢だが、
流れは確実にブロンクスに戻った。
Game 4は翌日、ルーキー右腕カム・シュリッツラーが先発予定。
相手はブルペンゲームでバーランドがオープナー。

47,000人を超える観衆の前で、チームは確かに息を吹き返した。
10月の夜風は冷たくても、
スタジアムの空気は、まだ「冬」には遠かった。

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