闇を裂いたマッド・マックス──シャーザー、夜のシアトルで甦る

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闇を裂いたマッド・マックス──夜のT-モバイル・パークで蘇った闘魂

10月のシアトル。海風が少し冷たくなり、吐く息が白く見える夜。
T-モバイル・パークの照明がまるで巨大な劇場のスポットライトのように輝き、
シリーズ第4戦の舞台を浮かび上がらせていた。

2敗1勝と崖っぷちに立つブルージェイズの先発マウンドに上がったのは、
41歳の右腕――マックス・シャーザー
誰もがその名前に伝説を感じながらも、「もう限界では」と心のどこかで思っていた。
だがその夜、彼は再び“マッド・マックス”と呼ばれた理由を証明する。


第1幕:冷えた空気を裂く初回の緊張

夜空を切るような照明の下、シャーザーの立ち上がりは不安定だった。
2つの四球、ざわめくスタンド。
しかし、勝負強いホルヘ・ポランコをダブルプレーに仕留めると、
一瞬にして空気が張り詰めた。
グラブを叩く音が静寂を破り、ベテランの闘志が光に照らされて浮かび上がる。

だが二回、ジョシュ・ネイラーの打球がナイトスカイを切り裂いた。
高々と舞い上がった白球はライトスタンドに吸い込まれ、
ブルージェイズのベンチが一瞬沈黙した。
だがシャーザーは微動だにしない。
その眼光は、左右で色の違う“オッドアイ”が夜光のように光っていた。


第2幕:古強者の牽制、流れを呼び戻す

三回、再び先頭打者を歩かせた。
それでも焦らない。
一塁走者をゆっくりと見据え、
突如として放たれた牽制球がランナーを刺した。
それは2016年以来の牽制刺――まさに老獪な一手だった。


スタンドのどよめきが波のように広がる。


彼はただのベテランではない、“まだ現役の猛獣”だった。


第3幕:マウンド上の咆哮──降板拒否の五回

五回、2死を取ったあとに迎えた1番アロザレーナ。
ジョン・シュナイダー監督がゆっくりとマウンドに向かう。
降板のサインか――
その瞬間、シャーザーの怒号がナイトゲームの静寂を裂いた。

「まだ投げられる!」

激しく首を振り、拳でグラブを叩く。
監督は一歩も引かず、その眼を見返す。
数秒の沈黙ののち、シュナイダーは頷き、ベンチへ戻った。
その直後、アロザレーナを三振に斬り伏せ、
シャーザーは吠えた。
その雄叫びは夜空に響き、ベンチの仲間たちの胸を震わせた。


第4幕:打線が応える──ゲレーロJr.の一撃

シャーザーの気迫がブルージェイズ打線を覚醒させた。
六回、マリナーズが2点を返してなお3点差。
その直後、ブラディミール・ゲレーロJr.が高めの速球を完璧に捉えた。
打球は眩しい光の中を一直線に突き抜け、センタースタンド中段へ。
ベンチが総立ちになり、夜の球場に響く「Vlad! Vlad!」の声。

そして八回、三回にも逆転弾を放っていたアンドレス・ヒメネス
再び2点タイムリーを放ち、勝負を決定づけた。
スコアは8-2
試合の流れを完全に飲み込んだブルージェイズが、
シリーズを2勝2敗のタイに戻した。


第5幕:ベテランの誇り、監督の信頼

シャーザーは5回2/3、3安打、2失点、5奪三振、4四球
マウンドを降りるとき、スタンドからは割れんばかりの拍手。
彼は静かに帽子のつばを下げ、
それまで見せなかった穏やかな笑みを浮かべた。

試合後、シュナイダー監督は語った。

「殺されるかと思ったけれど、最高の瞬間だった」

シャーザー自身は言葉少なにこうつぶやいた。

「これが俺のやり方だ。野球は情熱だ。まだ終わっちゃいない。」


第6幕:夜の光の中に刻まれた、ひとつの誇り

41歳、500試合目の先発登板。
シャーザーは、41歳以上でポストシーズン勝利を挙げた史上4人目の投手となった。
彼が立っていたマウンドには、長いキャリアの重みと誇りが刻まれている。
試合後、冷たい夜風が球場を通り抜けた。
誰もがその風の中に、“マッド・マックス”の息づかいを感じていた。

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