10月17日、ロサンゼルスの夜空は澄んでいた。
シリーズは3勝2敗とドジャースが後がない状況。
ここで負ければ夢は潰える。
そんな重圧の中、マウンドに立ったのは背番号17、大谷翔平だった。
だがその夜、彼は“勝つための投手”ではなく、“野球という物語そのもの”になった。
第一幕:静寂を切り裂く先頭打者弾
1回表、マウンドでは大谷が立ち上がりから3者連続三振。
そのたびに観客の息が止まり、声が漏れる。
ブルワーズ打線はフォーシームとスイーパーの切れに手が出ない。
「完璧だ」――そんな空気が、わずか数分でスタジアム全体を包んだ。
そしてその裏、打者・大谷が打席へ。
相手は左腕ホセ・キンタナ。カウントは3-2。
甘く入ったスライダーを完璧にとらえる。
打球はライナーで舞い上がり、ライトスタンドへ突き刺さった。
116.5マイル(約187キロ)、446フィート(約136メートル)。
投手として先発した選手が、同じ試合で初回先頭打者弾を放つ――
それはMLBポストシーズン史上初の出来事だった。
観客は総立ち。ベンチの仲間たちは笑いながらも、
どこか呆然と彼を見つめていた。
その勢いのまま、ドジャース打線は波に乗る。
続くムーキー・ベッツとウィル・スミスが連続安打。
トミー・エドマンの犠牲フライで2-0とリードを拡大し、テオスカー・ヘルナンデスの併殺崩れで3-0とした。
序盤で試合の流れを完全に引き寄せた。
第二幕:投手・大谷の支配と、二本目の衝撃
四回表、マウンドでの大谷は再びギアを上げた。
フォーシームの平均球速は98マイルを超え、
打者を次々と空振り三振に仕留める。
7回までに10奪三振・1失点。
制球、球威、変化、すべてが噛み合っていた。
そして、投げた直後の四回裏――
打席に立つ彼の目は、投手のそれではなかった。
ここで相手が2番手チャド・パトリックを投入。
だが、またしても大谷は軽く前足を開いたまま、スライダーを完璧に拾い上げた。
打球は右中間スタンドへ一直線。
469フィート(約143メートル)。
あの打球音の鋭さ、あの沈黙――
あれは、野球の神様が“もう一段階上の物語”を見せる瞬間だった。
第三幕:限界を越えて、三度目の奇跡
七回、100球を越えた大谷はなおもマウンドに。
先頭に四球、内野安打を許してピンチを迎える。
ここでマウンドを譲り、ベシアがリリーフ。
見事な併殺で切り抜けると、
再び大谷が打席に戻ってきた。
迎えるは守護神トレバー・メギルのフォーシーム・・・
大谷はこれを完璧に弾き返し、
中堅スタンドへ427フィート(約130メートル)の特大弾。
この日、3本目の本塁打。
そして、投手として10奪三振、打者として3本塁打――
この記録はMLB史上初だった。
スタジアムの照明が少し明るく感じるほど、
あの瞬間の歓声は大気を震わせていた。
最終幕:夜の終わりに、背番号17が残したもの
大谷は7回を投げきり、
被安打2・失点1・四球1・奪三振10。
打っては4打数3安打3本塁打3打点。
彼の放ったすべてのボールが、
勝利へと形を変えていった。
ブルワーズは8回にトゥランの内野安打で1点を返すも、
反撃はそこで途切れた。
最後は佐々木朗希が三者凡退で締め、
試合終了。ドジャース 5−1 ブルワーズ。
この勝利で、ドジャースは4連勝スイープでNLCS制覇。
2年連続、そして大谷にとっては初となる
ワールドシリーズ進出を決めた。
今日のメモ
- 試合結果:ドジャース 5−1 ブルワーズ(NLCS第4戦)
- 投手・大谷翔平:7回 2安打 1失点 1四球 10奪三振
- 打者・大谷翔平:4打数3安打 3本塁打 3打点
・1本目:キンタナからライトスタンドへ(先頭打者弾)
・2本目:パトリックから右中間へ(469ft)
・3本目:メギルから中堅へ(427ft) - その他投手陣:トレイネン、バンダ、佐々木朗希が無失点リレー
- ブルワーズ:キンタナ2回6失点、打線は沈黙
エピローグ
大谷翔平という名前は、
もう“二刀流”という言葉の枠に収まらない。
彼はひとつの球団を救い、
ひとつの街を照らし、
そしてこの夜――野球というスポーツそのものを更新した。
ロサンゼルスの夜空を貫いた三本の弾道。
その光は、もうしばらく消えそうにない。
コメント