息が詰まるような夜だった。ロジャースセンターの屋根は閉じられ、蒼い照明だけがフィールドを包んでいる。3勝3敗のまま決着の夜を迎えたALCS第7戦。勝てばワールドシリーズ。負ければ全てが終わる。ここまで積み重ねてきた162試合も、移動も、涙も、歓喜も、たった1試合の結果にすべてが回収されてしまう。あまりに残酷で、美しいゲームの夜。
■ 序盤はマリナーズの物語で始まった
初回、フリオ・ロドリゲスが三塁線を破る二塁打。続くネイラーのタイムリーでマリナーズがあっさり先制する。(SEA 1−0 TOR)
ただし、その裏。ドールトン・バーショのタイムリーでブルージェイズがすぐに追いついた。(1−1)
三回には再びロドリゲスが魅せた。外角スライダーを完璧に捉えたソロ弾。(2−1)
さらに五回。カル・ローリーがライトへ放った会心の一振りがスタンドへ吸い込まれ、スコアは3−1。ローリーは今季60本を放ち、ポストシーズンではこれが5本目のアーチ。主砲として申し分のない仕事だった。
投げてはカービーが4回1失点。五回からはブライアン・ウーが2イニング無失点。
その時点で、流れは完全にマリナーズだった。
■ それでも野球は残酷だ
マリナーズはこの日だけで 3併殺。しかも、打ったのはカル・ローリー → J.P.クロフォード → フリオ・ロドリゲスという主力3人。
“得点圏6打数1安打(.150)”──この数字が何よりすべてを物語っていた。
さらに 3つの失策。二塁打にすべきでなかった当たり、焦りからの送球ミス、暴投絡みの走塁ミス…。そのすべてが失点に直結した。流れはゆっくり、しかし確実に青く染まりはじめる。
■ 運命の七回。夜が割れた
七回、1死二・三塁の場面でマウンドには3番手バザード。そこへ立つのはジョージ・スプリンガー。
右膝に痛みを抱えたまま戦い続ける36歳。
ストライクでもボールでもなく、ただ“勝利だけ”を見据えた視線。
カウント1−0。
2球目、96マイル(154キロ)のシンカー。
――“ガンッ!”
打球は美しい弧を描き、左中間の闇を裂いた。
ロジャースセンター、爆音。
スコアは 4−3。
この一 swing が、シリーズを丸ごと塗り替えた。
しかもこの一発、
✅「ポストシーズン第7戦」
✅「七回以降」
✅「複数点差をひっくり返した逆転HR」
これは MLB史上初。
スプリンガーはこれでPS通算23本、歴代3位タイ。伝説の一振りとは、まさにこのことだ。
■ ラスト3イニング。静寂と狂気の狭間
七回裏、大エース・ゴーズマンが火消しに成功。
八回はバシットが三者凡退。
最終回、ホフマンが締めて試合終了。(4−3)
マリナーズは最後まで投げ出さなかった。
だが、勝負を決めたのは数字でも作戦でもなく、一瞬の意思と覚悟だった。
■ そして、物語は青の頂へ
ブルージェイズ、1993年以来 32年ぶりのリーグ優勝。
これでドジャースとのワールドシリーズが決定。
・1993年 → 最後のWS
・1992年/1993年 → 連覇
・2025年 → 新たな章へ
一方でマリナーズは、またしても届かなかった“初のWS”という夢。
本当に美しく、そして残酷な夜だった。
今シリーズの象徴は、おそらくロドリゲスでもローリーでもなく、
あの七回のスプリンガーの一振りだろう。
野球は残酷だ。
だが、それを知ってなお、人はこのスポーツを愛し続ける。
■ 次章・ワールドシリーズへ
ドジャース vs ブルージェイズ(10/24開幕)
・本拠地アドバンテージ:ブルージェイズ
・最大の焦点:大谷翔平 vs Guerrero Jr.
・鉄壁のドジャース先発陣
・ブルージェイズ32年の運命
また息が詰まるような夜が来る。
だがそれでいい。野球とは、そういう物語だ。
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