父の夢、息子の涙 ー 2025年ワールドシリーズが教えてくれたこと

2025年のMLBポストシーズンは、ロサンゼルス・ドジャースが劇的な延長11回の死闘を制し、球団史上初の2年連続ワールドシリーズ制覇を達成する、まさに歴史的な幕切れとなった。

大谷翔平が投打二刀流で先発し、山本由伸が9回途中から2.2回無失点の「神リリーフ」でシリーズMVPに輝いた第7戦は、誰もが息を呑む激闘だった。試合内容も申し分なく、延長戦までもつれ込む緊迫感、ミゲル・ロハスの9回同点ホームラン、ウィル・スミスの11回決勝弾と、野球の醍醐味が詰まった一戦だった。​

しかし、僕の心に最も深く残ったのは、敗れたトロント・ブルージェイズのブラディミール・ゲレーロJr.の涙だった。​

試合終了後、ゲレーロJr.はベンチに座り込み、しばらく動けなかった。そして引き上げる際、彼の瞳には涙が浮かんでいた。それは、ア・リーグチャンピオンシップシリーズ制覇時に見せた「嬉し涙」とは対照的な、深い悔しさと喪失感に満ちた涙だった。​

目次

ゲレーロJr.の夢と父への誓い

今シーズンのポストシーズンを通じて、コメンテーターたちが何度も繰り返し語ったのは、ゲレーロJr.の父への思いだった。彼の父、ブラディミール・ゲレーロ・シニアは2018年に野球殿堂入りを果たした偉大な選手であり、通算打率.318、449本塁打、2004年のア・リーグMVPという輝かしいキャリアを持つ。

しかし、父はMLBキャリアの中で一度もワールドシリーズを制覇できなかった。2010年にレンジャーズの一員として唯一のワールドシリーズに出場したものの、16打席で1安打(打率.063)という不本意な成績で敗退している。​

ゲレーロ親子
引用元:Full-Count

ゲレーロJr.は子どもの頃から「父にチャンピオンズリングを贈る」と公言してきた。「父はワールドチャンピオンになったことがないから、お父さん、指輪のサイズを教えてね」という彼の言葉は、単なるリップサービスではなく、本気の誓いだった。殿堂入りを果たしながらもリングを手にできなかった父のために、息子が成し遂げる――それは野球ファンにとって、これ以上ない美しいストーリーだった。​

引用元:dメニューニュース – NTTドコモ

ア・リーグ制覇の涙――「あと4勝」

ブルージェイズがア・リーグチャンピオンシップシリーズを制し、32年ぶりのワールドシリーズ進出を決めた瞬間、ゲレーロJr.は膝をつき、両手を天に突き上げた。自然と涙がこぼれ落ち、ユニフォームで拭っても止まらなかった。マウンドに集まったチームメイトやスタッフとハグをすると、さらに涙が溢れ出した。​

引用元:選挙ドットコム

インタビューで彼は顔をくしゃくしゃにしながら「あと4勝、あと4勝だ」と繰り返した。そして、トロントという街、ファン、そしてチームメイトへの深い愛情を語った。

「この組織を『組織』として見たことは一度もない。家族だと思っている。ここは自分にとって家族。チーム、街、ファン、すべてが家族」。

娘から「パパ、私たちトロントに残るの?」と聞かれることが一番つらかったと明かし、「僕はずっとここにいるよ。これから一緒にたくさんの思い出を作っていくんだよ。何年も何年も」とファンに向けて動画で約束した。​

この涙は、父への思い、家族への愛、そしてトロントという街への感謝が交錯した、純粋な喜びの涙だった。そして「あと4勝」という言葉には、父にリングを贈るという夢がもうすぐ現実になるという確信が込められていた。​

激闘のワールドシリーズ

ワールドシリーズは予想を超える激戦となった。第1戦でブルージェイズが11-4で圧勝し、第4戦、第5戦と連勝してシリーズを3勝2敗とリードした。ゲレーロJr.はポストシーズン全体で8本塁打を放ち、打率.415という驚異的な成績でチームを牽引した。彼は父が2010年に果たせなかった夢を、自分の手で実現しようとしていた。​

しかし、野球は残酷だ。第6戦でドジャースが3-1で勝利し、運命の第7戦へともつれ込んだ。そして11月2日、トロントのロジャーズ・センターで行われた最終戦は、延長11回までもつれる死闘となった。​

ブルージェイズは序盤に3点を先制し、7回まで優位に試合を進めていた。ゲレーロJr.は7回に美しい3-6-3の併殺プレーを完成させ、その時点で「あと6アウトで世界一」というところまで来ていた。しかし9回、守護神ジェフ・ホフマンがミゲル・ロハスに同点ホームランを浴び、試合は振り出しに戻った。​

延長11回、先頭打者のゲレーロJr.が二塁打で出塁し、1死一、三塁の好機を作った。しかし最後はカークが遊ゴロ併殺に倒れ、ブルージェイズの32年ぶりの世界一という夢は潰えた。​

ワールドシリーズ敗退の涙――失われた「あと1勝」

敗戦後のゲレーロJr
引用元:Full-Count

試合終了後、ゲレーロJr.はベンチに座り込み、しばらく動けなかった。引き上げる際、彼の瞳には涙が浮かんでいた。それは、ア・リーグ制覇時の嬉し涙とはまったく異なる、深い悔しさと喪失感に満ちた涙だった。​

「まだ僕らは折れていない」と彼は語ったが、その言葉には悔しさと同時に、次への決意も感じられた。しかし、僕にはその涙の重さが痛いほど分かった。​

父・ゲレーロ・シニアはALCS制覇後、Instagramに「これまでのすべての犠牲やトレーニング、涙を見てきた。君は本当に素晴らしいよ、息子!」と投稿していた。父もまた、息子が自分の果たせなかった夢を叶えることを心から願っていた。その夢が、あと一歩のところで消えてしまったのだ。​

大谷への憧れと敬意

今シーズンのポストシーズンでは、ゲレーロJr.と大谷翔平の関係も注目を集めた。ゲレーロJr.は以前から「大谷を尊敬している」と公言していた。ワールドシリーズ第4戦では、大谷から逆転2ランホームランを放ち、「彼を尊敬しているが、今日はたまたま打てた」と謙虚にコメントしている。​

レギュラーシーズン中での一幕
引用元:Yahoo!ニュース – Yahoo! JAPAN

塁上では、ゲレーロJr.は大谷と笑顔で会話を交わす姿も見られた。「家族や試合のこと」を話していたという。大谷もまた、ゲレーロJr.を「素晴らしい選手」と認めていた。​

しかし、最終的に勝利を収めたのはドジャースであり、大谷は2年連続でワールドシリーズ制覇を達成した。大谷は「今日あすはこの勝利に浸りたい」と語り、充実感を滲ませた。一方、ゲレーロJr.はベンチで涙を流した。この対比が、野球の厳しさを物語っていた。​

ドジャースとブルージェイズの未来

ALCSでのMVP受賞時のゲレーロJr
引用元:Yahoo!ニュース – Yahoo! JAPAN

ドジャースは今後も毎年のようにポストシーズンに進出するだろう。大谷翔平、山本由伸、フレディ・フリーマンといったスター選手を擁し、潤沢な資金力と優れた球団運営で、常に優勝候補であり続ける。2025年の連覇は、組織力と選手層の厚さを証明するものだった。​

一方、ブルージェイズは今回のワールドシリーズ進出が奇跡的な快進撃だったと言える。32年ぶりの進出を果たしたこと自体が偉業であり、今後同じようなチャンスが訪れる保証はない。ゲレーロJr.がトロントに残り続けるかどうかも不透明だ。彼は「僕はずっとここにいるよ」と約束したが、MLBの現実は厳しい。​

だからこそ、ゲレーロJr.の涙の意味は重い。ア・リーグチャンピオン時の嬉し涙は、「あと4勝で父にリングを贈れる」という希望に満ちていた。しかし、ワールドシリーズ敗退後の涙は、その夢が潰えた悔しさと喪失感に満ちていた。この2つの涙の対比が、今回のポストシーズンを忘れられないものにしている。​

感慨深い思い

僕は今回のポストシーズンを通じて、ゲレーロJr.の涙に何度も心を動かされた。彼の父への思い、トロントという街への愛、そしてチームメイトとの絆――それらすべてが涙に込められていた。​

ドジャースの優勝は素晴らしかった。大谷翔平の投打二刀流、山本由伸の神リリーフ、そして延長11回の劇的な決着。しかし、僕の心に最も深く残ったのは、ゲレーロJr.の涙だった。​

コメンテーターたちが何度も語った「父へのチャンピオンズリング」というストーリーは、結局叶わなかった。ア・リーグ制覇時の嬉し涙と、ワールドシリーズ敗退後の悔し涙――この2つの涙が、ゲレーロJr.という選手の人間性と、野球の厳しさを教えてくれた。​

ドジャースは今後も強いだろう。しかし、ブルージェイズが再びワールドシリーズに進出できる保証はない。だからこそ、ゲレーロJr.の涙は重く、そして忘れられない。​

僕は、彼がいつか父にチャンピオンズリングを贈れる日が来ることを願っている。そして、その時の涙が、今回の悔し涙を癒してくれることを信じている。2025年のワールドシリーズは、ドジャースの栄光とともに、ゲレーロJr.の涙の物語として、僕の心に刻まれた。​

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

目次