夜の屋根付きドームは、独特の湿度をまとっている。空気が重い。息を吸っただけで鼓動が速くなる。
――勝てば球団史上初のワールドシリーズ。負ければ振り出し。
そんな覚悟を喉の奥に詰まらせたまま、第6戦のプレイボールを見届けた。
■ 序盤──沈黙の先に生まれた“ほころび”
ブルージェイズの先発、新人トレイ・イェサヴァージ。
20代前半の若さとは裏腹に、表情は一切揺れない。初回から150キロ台のフォーシームで三者三振。場内が「今日は違う」と悟った空気に変わった。
試合が動いたのは二回。
マリナーズが守備で連続ミス。浮いた空気を逃さず、アディソン・バージャーがライト前へ。
続くアイザイア・カイナー=ファレファの内野安打でもう1点。
2−0。まだ序盤。だが、この2点は“心の呼吸”を奪う2点だった。
■ 中盤──音を立てて崩れた“リズム”
三回、マリナーズは満塁の絶好機を作る。
打席はカル・ローリー。
これ以上ない場面だったのに、打球は一塁正面──併殺。
四回、再び満塁。打席はJ.P.クロフォード。
しかし、またも併殺。
さらに五回、今度はフリオ・ロドリゲスが併殺。
わずか3イニング連続で、満塁併殺3つ。
スタンドの溜息は、応援よりも重く響いた。
その裏、ブルージェイズはクレメントの三塁打、バージャーの2ランで4−0。
五回にはゲレーロJr.がソロアーチ。
ポストシーズン6本目。球団記録に並ぶ一発で5−0。
イェサヴァージはこの間、
5回2/3、87球、6安打、2失点、7奪三振、3四球、そして満塁併殺3本。
新人の数字ではない。精神力の勝利だった。
■ 終盤──遅すぎた反撃、消えない悔しさ
六回、ジョシュ・ネイラーがバックスクリーンへソロ。
その一発に拳を握ったが、七回裏に守備ミス絡みでまた失点。6−1。
八回、スアレスのタイムリーで1点を返し6−2。
しかし、それが最後の得点となった。
マリナーズは 3失策・3併殺・満塁3度凡退。
「負けるべくして負けた試合」という言葉は簡単だが、
”あと一球、あと一つ前へ打つ角度、あと半秒の冷静”が積み重なるだけで、野球はこうも残酷になる。
試合終了の瞬間、ロジャースセンターの夜は割れるほどの歓声。
マリナーズベンチには沈黙だけが残った。
■ 運命の第7戦へ──天国か奈落か
舞台は整った。
3勝3敗、ALCS第7戦。
- ブルージェイズ先発:シェーン・ビーバー
- マリナーズ先発:ジョージ・カービー
ブルージェイズはホームでの勝率.667。
マリナーズはリリーフが疲弊し、先発陣が崩れてきたシリーズ状況。
ただし、野球は理屈を裏切る。
このシリーズには物語の主役が3人いる。
- ウラディミール・ゲレーロJr.
- カル・ローリー
- フリオ・ロドリゲス
最後の夜、銅像になるのは、誰か。
たった1試合が、未来を決める。
勝者はドジャースが待つワールドシリーズへ。
敗者は、永遠にこの夜を忘れられなくなる。
ああ、野球は、美しくて、残酷だ。勝てば伝説。負ければ悔恨。
だからポストシーズンは面白い。
次の試合が、今年の“物語”の最終章になる。
最高にしびれる夜が、また待っている。
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